スター

サッカー

 昔、あるサッカー解説者が「スタープレイヤーがサッカー界には必要だ。」と言う趣旨の発言をしていた。その一挙手一投足が注目され、勝っても負けてもその選手のせいにされる。そういう選手がいて初めてサッカー界が活性化するし、すそ野も広がる。ひいてはサッカー全体のレベルも上がる。そういう発言だった。

 解りやすい例がCロナウドなどだろう。類まれな業績と、自他ともにスタープレイヤーである事を認める。もしくは認めさせる。まさにスターが服を着ているかのような印象だ。

 これに対し、少し昔の話になるがジネディーヌ・ジダンと言う選手がいた。1998年W杯で母国フランス(彼自身はアルジェリア移民だが・・・)を優勝に導いた立役者だ。ジダンもやはりスター選手に間違いない。ただ、若干Cロナウドとは異なる。

 ピッチ上の指揮者としては気性が荒く大胆この上ない彼だが、ピッチの外では極々内気で繊細な人物として知られている。自身がコーチを務めた際、自分の動画を見せながら照れていた逸話や、テニスを習いたがっていたジダンがあるホテルでテニスプレイヤーのアガシの隣に泊まったが、恥ずかしくて声をかけられなかった逸話などが残っている。また、レアルマドリードに移籍した当初、物凄いプレッシャーから「こんな事なら引退してしまいたい。」と親しい友人に愚痴をこぼしていたエピソードもある。

 どうやら、Cロナウドなどとはまた違ったスター選手像が浮かび上がってきそうだ。そこで見えてくるのはスタープレイヤーというサイズの合わない服をお仕着せられているかのような彼の姿だ・・・。

 またこんな逸話もある。ある日地元の中学校で講演を頼まれた彼は「自分に習う必要はない。警備員として地道に働き、子供を一人前に育て上げた俺の兄のような人物にこそ学ぶべきだ。」と述べている。彼の人となりの一端がうかがえる話だ。

 このように、ピッチ外では蚊も殺せない様な極々繊細な男のジダンがピッチ上でその怒りを爆発させたのが《頭突き》事件だ。2006年のW杯決勝で彼はイタリアのマテラッツイーの胸元に頭突きをして一発レッドをくらった。詳しい事は解らないがこの際マテラッツイーはジダンに対し、その出自や肉親の事を侮辱した発言をしたとされている。試合結果はPK戦でイタリアの優勝となったが、イタリアが優勝した事よりもジダンの頭突きの方が印象に残っているのは私だけではないだろう。怒るべき時に怒ってこそ人間としての尊厳が保たれる。ジダンは大切な事を教えてくれた。

 スターと言われる選手は彼ら以外にもペレを始めとしてマラドーナ、クライフ、ベッケンバウアー、プラティニ、怪物ロナウド、ロナウジーニョ、メッシ、ネイマール等々いるが、1人間として私が最も心を惹かれるのはこのジダンだ。もっとも彼の方では東洋の島国のどこの馬の骨とも知らないオッサンに好かれて迷惑この上ないと思われるが・・・。

 この話にはオチがある。このジダン現役時代からたまに隠れて、あろうことかタバコを吸っていたそうだ。サッカー選手がタバコなんて・・・。でも、それでいいような気もするのだ。ありがとうジダン。

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