現代人は何かと忙しい。
かくいう私もその一人だ。この年末年始休暇を利用してカズオ・イシグロ氏の(『私を離さないで』2005)を読もうと思っていたのだが、なかなか長い時間をとれない。結局、途中で挫折して、代わりに、北村良子氏の『発想力を鍛える33の思考実験』という本を読み始めた。こちらは33の思考実験とあるように、各単元の区切りが短くて、細切れの時間であっても読みやすい。読み進めていくと第一章の「心のありかを問う実験」で、なんとカズオ・イシグロ氏の『私を離さないで』が話題にあげられていた。(クローンに心はないという考えから、臓器提供に利用される主人公たちを描いた作品)とあり、その時点でネタバレというか、小説のテーマが解ってしまったわけだが・・・。
まだ全部読んでいないので何とも言えないが、前者『私を離さないで』では400ページにわたって展開されるテーマを、後者『発想力を鍛える33の思考実験』ではほんの十数ページであつかっている。大変興味深い。どちらが良いとか悪いとか、そういう話ではない。物語の細部まで描かれていて、登場人物に対する思い入れが深まるという点では前者の方が優れている。ただ、「とにかく時間がない」という観点からすれば、後者の方が優れているのも事実だ。そして幸か不幸か、世界は無数のテーマに満ち満ちている。に対して時間は有限だ。私などはつい後者を選んでしまう。「もっと時間と集中力があればなあ」といつも思う。
小説を読むにしても、同じことが言える。小説とは心理描写、会話、情景描写の3つから成るとある作家が述べていたが、いわゆる情景描写を私は、流し読みしてしまう癖がある。情景を描写することで、登場人物の心理をメタファーとして読者に伝えているのだと思うが、そんなことよりは登場人物の心理や会話・発言をダイレクトに受け止めたい。この情景描写を実際の絵で表しているのがマンガなのではないかと思って久しい。情景を描写する文章を一目でわかる絵で表現しているのだから、時短という観点でもマンガは優れた表現形態だと思うのだが、あまり評価されない。嘆かわしい限りだ。
時短という観点で言えば音楽にも同様の事が言える。クラシックなどをたまに聞くと、あまりの悠長さに.あくびが出てしまう。そういう時代だったのだろう。現代の楽曲だって今とバブルの頃ではイントロの長さに違いがある。今の曲はイントロが長いとそれだけで飽きられてしまうらしい。何とも忙しい世の中になったものだ。
さて話は移るが私が書き綴っているこの文章はあえてカテゴライズするならエッセイになるのだと思う。長編とまではいかなくても、中編、短編小説を書いてみたいという思いはあるのだが、時間的にも注ぎ込むエネルギー的にもなかなかできずにいる。ただ、実際に読んでくださる方々の事を考えると、これはこれでよいのではないかと思う。忙しい日々の中でスキマ時間に読んでそれなりに楽しめて考えるきっかけとなる。そんな文章が今の社会では有用なのかもとも思うのだ。
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