寿司

 ゴールデンウィークに家族4人で東北の宿に2泊3日の旅行をしてきた。帰り道に新潟の小出と言う土地で昼食をとることになった。Googleで検索したところ近くに★4つのすし屋があるので、そこで食べることにした。仕事で機会のある、もしくはあった父と兄は別として母と私は回らない寿司は本当に久方ぶりだった。私にいたってはそれこそ10年以上食べていない。正直心が踊った。

 お店にはランチメニューがあり、1350円でてんぷらと茶碗蒸しとデザートがついてその他に握りを5貫選べるというものだった。カウンター鹿椅子の席がなかったので我々はカウンターに兄・父・母・私の順に腰を掛けた。父は通常メニューから上握りを、残りの3人は1350円のランチセットを頼んだ。その際、兄と私はめいめい好きなネタを5貫頼んで握ってもらったのだが、私の隣にいた母は握りでなく稲荷と巻物を頼んだ。隣にいた私が
 「同じ値段だし、せっかっくだから好きなネタを選んで握ってもらったら?」
と言うと、母は
「これでいいよ。」と言う。私は当人がそれでいいなら、まあいいか。と思いそれ以上は何も言わなかった。

頼んだものが出てくると母は
「それだけじゃ足りないだろうから。」
と言って、兄と私に自分の巻物を分けてくれた。

 食後、店を出た後で兄が
「なぜ、握りを頼まなかったんだよ!せっかく皆で寿司食べるのに!」
と怒ったように母に言う。母は
「あれが食べたかったんだよ。」
と答える。兄は
「あ~じゃあもういいよ。勝手にしてくれ!」
と運転席に乗り込む。

 私には兄の気持ちも母の気持ちもよくわかる。兄は母に美味しいものを食べてもらいたかったのだ。それなのに母が変な形で遠慮するものだから腹が立ったのだ。兄が腹を立てるのは母に対する愛情が深ければこそなのだ。自分の感情をストレートにあらわにする兄が私は半ば眩しくもあり、半ば心配でもある。

 母は母で、もういい年だというのに、我々兄弟が食べ足りないだろうから。と気を使ってくれたのだ。と同時にそこには贅沢ができない母の性分が現れていた。そのように母が質素に努めてくれたおかげで、その場にはいない妹を含め、我々3人を大学まで出してくれたのだ。節約が身にしみこんでいる母ならではの選択だったのかもしれない。

 そこに行くと父は賢明だ。家長である自分が一番豪華なものを食べないと、我々が変に気づかいをしてリラックスできない事がよくわかっている。ちなみにここの寿司のお代は父が払ってくれた。

 私はと言えば、食べたいものを食べ、お茶までお替りして、まあ、気楽なものだ。

 我々はごくごく普通の家族だが、そこにはごくごく普通な家族なりのドラマがある。ドラマがあって良かった。ドラマがあるという事が家族の証明だからだ。そこに何のドラマもなくなってしまっては、それは、単に個人の集まりになってしまう。

 そんなわけで、旅行に行けてよかった。

 お疲れ様。有難う。

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