「和」と「美」

授業

「先生って優しいんだね。」
「うん、そうかもしれない。でもね、多くの場合、長所と短所と表裏一体なんだ。」
「どういう事?」
「つまりね、ある作家がこんなこと言っているんだけど・・・。」

~強くなければ生きてはいけない。優しくなければ生きる資格はない~

「優しさというのが繊細さを意味するなら、ここで言うところの強さとは図太さやしたたかさも含めてって事ね。」
「解った。つまり優しさと強さのバランスが必要って事でしょ!」
「そう、その通り!」
「何事もバランスなんだね。」
「そうなんだ、その意味で先生は必ずしもバランスの取れた人間ではないかもしれない。」
「バランスが大切か・・・。成る程。」
「そう、古代ローマ人は何事にもバランスを重視したので非常に有名なんだよ!」
「古代ローマ人って?」
「地中海を取り囲むように支配した、すごく平和で繫栄した1時代を築いた民族。そのうち歴史で習うよ。」
「ふーん。」
「それに対して古代ギリシャ人は『美』を重んじた。」
「美って美しいの『美』?」
「そう、その美!」
「日本人は何を重んじるの?」
「そうだね~日本人はやっぱ『和』かなぁ。」
「和って?」
「人の和とか平和の『和』だよ。」
「じゃあ先生は?」
「私、私は自分で言うのもちょっと照れるけど古代ギリシャ人と同じで『美』なんだろうなぁ~。そしてそれが“日本人”としての私の限界でもある。」
「どういう事?」
「つまり、『和』を重んじなければ・・・と頭では解りつつも、『美』を優先してしまう。でもそれでは、社会生活を送るうえで色々都合が悪いんだよね・・・。」
「先生ってロマンチストなんだね!」
「ほう、よく解ったね!先生は『美』とか『理想』とか『ロマン』という方面に自分では向いていると思っているんだ。決して『現実主義者』、横文字で言うところの『リアリスト』ではないんだよね。先生が北野武さんを好きなのもその辺りと関係している。」
「北野武って?」
「知らないの?『HANABI』とか『アウトレイジ』とか『菊次郎の夏』とか素敵な映画たくさん撮っているよ。今度見てご覧。」
「どこが好きなの?」
「彼の美意識や隠しがちなその優しさや、とにかく映画見た方がいいよ!」
「ふーん、先生会った事あるの?」
「ないない。」
「会ってみたい?」
「そりゃ、会ってみたいね。それでちょっと触れてみたいよ(笑)」
「なんで?」
「みんなだって好きな人の手握ってくるだろ!それと同じだよ!好きな人には触れてみたいもんだよ。でも北野武さんは嫌がるだろうなぁ。だからね、握手と言わないまでも、こう、指先と指先がちょっと触れるだけでもね。それでビクッとしたりしてね(笑)。」
「えっ、それって恋じゃん?」
「あっそうか!参ったなこりゃ(笑)」

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